KENWOOD D-3300T (15号機) が到着
2025年5月24日、東京都中央区の O さんより
KENWOOD D-3300T
の修理依頼品が到着しました。
O さんの自家配送でした。
定価14万円
の高級 FM 専用チューナです。
実は、本機は
KENWOOD D-3300T (14号機)
を修理をするためのドナー機だったのですが、これを使うこともなく14号機の修理ができてしまいました。
修理依頼者に本機も修理するか確認したところ、「修理してほしい」の回答がありました。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
ネットオークションにて入手したもので、過去の扱い(修理、調整、改造、保存状態)等は不明です。
-
FL 表示器は点灯するが受信できずノイズだけ聞こえるという状態です。
-
外観
-
製造シリアル番号は [80200116] で、電源コードの製造マーキングはかなりかすれており、ここからは製造年は読み取れませんでした。
-
フロントパネルにスレや小キズや汚れがありますが、原型は留めており実用品としては十分です。
-
サイドウッドは左右とも欠品しています。
-
リアパネル状態は普通ですが [RCA 端子] [アンテナ端子] に黒いサビが出ています。
-
天板の左側奥に目立つヘコミがあり、スレやキズや汚れがあり、良い状態ではありません。
底板は綺麗です。
-
総合して並みの中古よりかなり劣る状態です。
-
電源 ON してチェック
-
電源は入り FL 表示器や LED は点灯します。
-
全ての操作ボタンの反応が鈍く素早く応答しません。
数10回押してやっと反応します。
ここまで酷いのは初めてです。
-
放送局に同調してみると、T メータが右端で赤く表示されます。
そして蚊の鳴くような歪だらけのごく小さい音が出ます。
-
S メータはフルに振れるのでそう感度落ちしている訳ではなさそうです。
-
カバーを開けてチェック
-
動作に問題ないと思いますが、分厚い銅製放熱板に黒いサビが出ています。
-
同じく銅製のフロンエンドカバーは綺麗なので、この黒いサビは何でしょう???
リアパネルの端子類にも黒いサビが出ているし。
-
基板に綿埃が堆積しています。
目視で明らかに劣化とわかる部品は見当たりません。
リペア (その1):放送局に同調しても T メータが右端に赤く表示される
-
調査と原因
-
現象よりは FM 同調点検出不具合です。
-
通常は FM 同調点調整用 IFT [L9] の再調整で直るのですが、本機はこれではダメでした。
-
更に [L9] を調べると S カーブが出ない、どうやら内部のチタコンが短絡故障しているとわかりました。
これが原因です。
-
こうなると [L9] を外して修理するしかないです。
[L9] はかなり面倒な場所にあるのですが、やるしかないです。
-
修理
-
左の写真の黄色□で囲んだのが [L9] が実装されている [検波基板] です。
-
ドータボードになっており、多くのピンが [メイン基板] に直接ハンダ付けされています。
-
このため [検波基板] を取り外すのは大変な手間がかかります。
-
右の写真は取り外した [検波基板] です。
黄色〇で囲んだ部品が [L9] です。

-
左の写真は [検波基板] から取り外した [L9] で、右の写真は [L9] の裏側です。
-
[L9] の裏側のチクワの形しているのがチタコンです。
マイグレーション
が発生して真っ黒になっています。
-
普通は容量抜けが多いのですが、今回はマイグレーションがチタコンを短絡していました。

-
こうなると、もうこのチタコンは使えないので除去してから [L9] を [検波基板] に戻しました。
-
除去したチタコンの代わりに 30ppm/℃ 温度補償 C0G 積層セラミックコンデンサ 100pF を基板の裏側に取り付けました。
-
黄色〇で囲んだ青い部品が積層セラミックコンデンサです。

-
修理が終わった [検波基板] を [メイン基板] に戻しました。
-
修理後の動作確認
-
[L9] のコアを回すと正常に S カーブが出ました ・・・ 直りました!!!
-
放送を受信すると上の右側写真のように T メータがセンタになり、綺麗な音が出るようになりました。
-
到着時に確認した「蚊の鳴くような歪だらけのごく小さい音」は、FM 同調検出できないので MUTING がかかり放しになっていたのです。
再度、動作チェック
-
概要
-
これまでは音が出なかったので、本来の感度とか音とかの動作チェックができませんでした。
-
[検波基板] を修理してやっと音が出るようになったので、再度、動作チェックしました。
-
動作チェック
-
FL 表示は正常で、放送受信で出てくる音も正常です。
-
[ANTENNA A/B] スイッチが劣化しておりアンテナから入った電波が減衰しています。
-
操作ボタンに使っているタクトスイッチが全部劣化しています。
-
タクトスイッチに代わりに電線で接点箇所を短絡すると本来の動作をするので、タクトスイッチの劣化故障確定です。
-
[REC CAL] ボタン ON でテスト音が正常に出ます。
-
ステレオセパレーションや音質がやや劣化しているように感じますが、これは再調整で直ると思います。
-
以上より、更に別の箇所の修理が必要です。
リペア (その2):[ANTENNA] スイッチのバイパス改造
-
[ANTENNA] スイッチは D-3300T のウィークポイント
-
ここにメカニカルスイッチを使ったのは KENWOOD の設計ミスと思います。
-
ここには従来の TRIO バリコン式チューナと同じくリードリレーを使うべきだったのです。
-
コストダウン目的でメカニカルスイッチにしたことが、後に禍根を残す結果になったのです。
-
メカニカル接点は常に空気に触れており必ずサビます。
そしていつか接触不良という重大問題化するのです。
-
メカニカル接点を使うのであれば数 10mA の電流を流す使い方が正しいです。
-
電流を ON/OFF する際のスパークで接点が洗浄されるのです。
-
アンテナ切り換えでは全く言ってよいほど電流は流れません。
接点がサビるいっぽうです。
-
[ANTENNA] スイッチでの A/B 切り換えは諦め、FM フロントエンドと F 端子を直結することにします。
-
改造
-
[ANTENNA] スイッチの切り離しと、新たな F 端子とフロントエンドを直結
-
以下のように、2箇所パターンカット (×のところ) しました。
-
同軸線で新しい F 端子とフロントエンドを直結しました。

-
どうせ改造するので、オリジナリティに拘る必要はないです。
-
[簡易 F 端子] を [本格的な F 端子] に交換しました。
元付いていた簡易 F 端子は使用不能に近いほどサビが出ていたので一石二鳥です。
-
下の写真は F 端子取り付けの表裏です。
裏側でネジロック剤を塗布しています。

-
F 端子を交換したので、もう必要ではなくなった穴が見えるようになりました。
-
このままでも何ら問題ないです。
-
気になる場合は黒のマイタックシールでも貼っておけばよいと思います。
処置は修理依頼者のほうでお願いします。
リペア (その3):タクトスイッチ全数交換
-
概要
-
操作ボタンが素早く反応しないのです。
何10回か繰り返して押してやっと動作するという状況で、我慢の限界を超えます。
-
原因は操作ボタンに対応するタクトスイッチの劣化故障です。
全部ダメです。
-
リアパネルの端子と内部の銅製放熱板に見慣れない黒いサビがあり、おそらくタクトスイッチの接点にも同じサビが出ていると思います。
-
修理
-
D-3300T ではタクトスイッチ交換は厄介です。
-
フロントパネルを完全に分解して、右の写真のように [フロントパネル基板] を取り出す必要があります。
-
タクトスイッチは全部で19個あります。
-
適合タクトスイッチは [6×6mm/スイッチトップ長5mm/4pin] です。
-
1個につき 4pin のリードがあるので、4pin×19個=76箇所 のハンダ付けを外す必要があって作業量も膨大です。
-
タクトスイッチのリードを見ると、リアパネルの端子や放熱板で見た「黒いサビ」が出ています。
-
おそらくスイッチ接点もこのサビで劣化したのでしょう。
19個全部ダメなので異常過ぎです。
-
下の写真はタクトスイッチ交換前です。
一番下に19個並んでいる四角い部品です。

-
下の写真はタクトスイッチ交換後です。
スイッチトップの色が 茶色→黒色 に変わりましたが問題ありません。

-
修理後の動作確認
-
全てのボタン操作が正常になりました。
押すと軽快に切り換わります。
-
なお、タクトスイッチには少し押し圧の大きいものを使ったので、ハッキリとした反応感になりました。
リペア (その4):電気二重層コンデンサを交換
-
概要
-
D-3300T においては AC プラグを抜いても電気二重層コンデンサで一定時間プリセットメモリの記憶をバックアップします。
-
オリジナルの電気二重層コンデンサは [C63] 18mF/5.5V です。
製造から39年経っているので、そろそろ寿命です。
-
修理
-
部品交換リストは以下です。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C63 |
18mF/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
-
左の写真は交換前です。
電気二重層コンデンサは橙色の部品です。
18mF しかないのに巨大です。
-
右の写真は交換後です。
青色の部品が交換後の電気二重層コンデンサです。
容量が大きくなったのに小型になりました。

-
オリジナルの 18mF から 1F と50倍以上になったので、長時間バックアップできます。
おそらく数ヶ月か?
リペア (その5):ハンダクラック予防補修
-
ハンダクラックしやすい箇所
-
左の写真はリアパネルにある RCA 端子の裏側です。
端子のリードが基板に直接ハンダ付けされています。
-
ここはリアパネルと基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
-
右の写真は銅製放熱器に取り付けられた [パワートランジスタ] [電源 IC] です。
-
ここは銅製放熱器と基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
-
なお、放熱板を見てわかるように本機には正体不明の黒いサビが出ています。

-
予防補修
-
まだハンダクラックには至ってはいませんでしたが、ハンダクラック気味になっていました。
-
劣化している古いハンダを吸い取り、新しく補修ハンダ付けしました。
リペア (その6):その他
-
基板に綿埃が堆積している
-
エアブロアと刷毛でできるだけ綿埃とゴミを除去しました。
-
基板には部品が載っているので完全には清掃できないです。
-
RCA 端子のサビ落とし
-
アンテナ端子は本格的な F 端子に交換したので良好です。
-
RCA 端子の黒いサビは
ピカール
でマイクロ研磨してサビを落としました。
-
完全には元に戻らないのですが、使用には問題ない程度には回復しました。
-
使わない端子には右の写真のような RCA 防塵キャップを被せておくと防サビ効果もあるので、お奨めです。
amazon
などで安価で売られています。
再調整
-
電圧チェック (VP)
-
実測値は以下のように良好でした。
| VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| J35 (Q26-E) |
+15V |
+14.7V |
〇 |
アナログ系 |
| J40 (Q27-E) |
-15V |
-14.7V |
〇 |
| J38 (IC11-OUT) |
+5.6V |
+5.73V |
〇 |
デジタル系 |
| J31 (Q28-E) |
+18V |
+17.5V |
〇 |
FL |
| J27 (Q32-E) |
+32V |
+31.4V |
〇 |
VT 電源 |
-
FM 受信部の調整
-
再調整結果
-
同調点調整用 IFT [L9] のチタコン→積層セラミックコンデンサに交換したので、再調整で規定内に入れました。
-
FM フロントエンドのトッラキング調整が大きくズレていましたが、再調整で感度が2倍くらい上がりました。
-
PLL 検波が大きく調整ズレしていましたが、再調整で規定内に入りました。
-
MPX VCO 調整でややズレがありましたが、再調整で規定内に入りました。
-
IF 歪補正の再調整で高調波歪率が以下のような素晴らしい数値になりました。
-
ステレオセパレーションは再調整で以下のような超優秀値になって、音の解像度が上がりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
| NARROW |
64 |
63 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.011 |
% |
| stereo |
0.017 |
% |
| NARROW |
mono |
0.040 |
% |
| stereo |
0.040 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-76 |
-76 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
-0.02 |
dB |
| REC CAL |
WIDE |
mono |
398 |
Hz |
| -5.2 |
dB |
使ってみました
-
修理&再調整が終わって
-
本機は部品取り機材として修理依頼者から提供されたドナー機でしたが、
見事!復活しました!!!
-
修理箇所が多く、それも部品交換するのが厄介な場所にあるものばかりで時間がかかりました。
-
修理と再調整により感度が大幅に上がり、そして聴き違えるほど高音質に復活しました。
これが本来の D-3300T の実力です。
-
外観はイマイチですが性能は一級品です。
イマイチの部分はラックに入れると見えないです。
-
デザイン
-
フロントパネルが分厚いヘアラインアルミ材、チューニングツマミやボタンもアルミ材、天板は分厚い鉄板と、質感良好です。
-
[MODULATION] 表示はピークホールド付きで見易く、見ていて面白いです。
-
プリセットメモリは16局分あります。
これだけあれば、まず十分です。
-
[QUIETING CONTROL] ボリュームがあります。
-
通常は [NORMAL] 端で使います。
-
[DISTANCE] 端にするとモノラルになってしまうので注意です。
-
ステレオ受信して雑音が多い場合に操作すると、ハイブレンドされて S/N が改善されます。
-
[RF SELECTOR] は [DISTANCE] で使うのが正解です。
-
[DISTANCE] のほうが S/N が上がります。
-
[DIRECT] は放送局の真下とか電波が強過ぎる場合に選択します。
-
[DIRECT] はフロントエンドの高周波増幅段をバイパスして感度を落として強過ぎる電波に対応するモードなのです。
-
[DIRECT] にしたら音が良くなるということはありません。
この辺りを誤解している人が多いです。
-
このケースの方はほぼいないと思うので、[DISTANCE] で使うのが正解なのです。
-
感度と音質
-
聴き惚れるほど素晴らしい音です。
-
KENWOOD らしい、解像度の高いカチッとした硬派の音です。
音にキラキラ感があります。
-
S/N が非常に良く暗黒の静寂の中から細かい音が良く出ています。
-
高級機らしい非常に安定した
感度と妨害電波排除能力です。
定価14万円にふさわしい高性能・高音質マシンです。