KENWOOD KT-1010F (9号機) が到着
2025年9月14日、宮崎市の A さんより
KENWOOD KT-1010F
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
電源が入りません。
コンセントに指したまま数ヶ月放置して、本日電源を入れたら入りました。
-
購入して数年後から同様の現象が発生していました。
各部の調整もお願いします。
-
天板を側面から留めるネジ×4本が欠品していますが、そのままでよいです。
-
外観
-
製造シリアル番号は [64K10528] で、電源コードの製造マーキングより [1986年製造品] とわかりました。
-
[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
-
フロントパネル自体は綺麗ですが以下の汚れなどがあります。
-
ディスプレイ窓の内側にススのような汚れが出ています。
-
[FM IF BAND] [REC LEVEL] ボタントップにキズがあります。
これはどうしようもないので放置です。
-
リアパネルは綺麗で端子類にも輝きが残っています。
-
天板に汚れがありますが致命的なキズなどはありません。
天板を側面から留めるネジ×4本が欠品しています
-
底板は特に問題ないです。
-
電源 ON して動作チェック
-
電源は入り表示器に表示が出ましたが音が出ません。
-
このまましばらく放置したら音は出ましたが表示器が真っ暗になりました。
-
この時に [POWER] スイッチを軽く押さえてみると表示が一瞬出ましたが、すぐにまた真っ暗になりました。
-
以上より、[POWER] スイッチか電源周りの不具合の気がします。
-
この段階ではこれ以上チェックしようがありません。
-
カバーを開けてチェック
-
内部は非常に綺麗で、目視で劣化とわかる部品は無さそうです。
-
黒色のフラットケーブルの全部の表面がネチャネチャしています。
加水分解なのでやむを得ないです。
放置です。
リペア (その1):電源が入らない
-
調査と原因
-
正確には「電源は入るが表示器が真っ暗」です。
表示が真っ暗なので状態がわかりませんがボタン等の操作はできました。
-
原因は [POWER] スイッチ故障でスイッチ接点の接触不良です。
-
このスイッチで表示器 (FLD) のフィラメントも ON/OFF しており、接点接触不良でフィラメント電源が入らないのです。
-
FLD はフィラメントに電気が入っていないと電子が飛ばず何も表示されません。
-
修理
-
スイッチを新品に交換できればベストですが、これと同じ物はもう入手できません。
-
やむを得ないのでスイッチを取り外しバラバラに分解してから清掃しました。
-
このスイッチは電力用ではなく信号用で2接点4回路です。
-
スイッチの摺動子の接点バネが広がって接触抵抗が大きくなっていました。
-
接点を清掃し接点バネを狭めました。
-
修理後の動作チェック
-
[POWER] スイッチで正しく ON/OFF できることを確認しました。
-
87MHz までの放送は受信できますが、これ以上になると S メータが点滅して受信できません。
これまで電源が入らなかったのでわからなかったのです。
-
コメント
-
KT-1010F を含めて [POWER] スイッチそのものの故障は初めてです。
よほど頻繁に ON/OFF していたのだろうと思います。
-
今回は分解清掃で直りましたが、そもそもスイッチの接点が摩耗しているので、長期的に大丈夫か不安があります。
-
また再発したら次は以下の [スイッチの交換] または [改造] を検討したほうがよいです。
-
交換用スイッチは KT-1010F か KT-880F のジャンク品を格安で入手し、そこから移植する。
-
[POWER] スイッチの使用を諦め、常に ON 状態になるよう改造する。
-
電源 ON/OFF は AC プラグで操作します。
孫の手スイッチなどを使います。
リペア (その2):87MHz 以上の放送は S メータが点滅して受信できない
-
調査と原因
-
周波数に依存するということは VT 電圧 (同調電圧) が異常になっていると思います。
-
[電源基板] の電圧を測定した結果は以下です。
-
[-15V] 電圧が -12.7V でこれでも動作はしますがやや低いです。
-
[+28V] 電圧に AC9V ものリップルが乗っており全然ダメです。
これが S メータが点滅する要因です。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| 電源基板 CN1-1pin |
-15V |
-12.7V |
△ |
OP アンプ |
| 電源基板 CN1-3pin |
+5.6V |
+5.61V |
〇 |
コントローラ |
| 電源基板 CN1-4pin |
+28V |
+24.7V AC9V のリップルが乗っている |
× |
VT 電源 |
| 電源基板 CN1-6pin |
+15V |
+13.9V |
〇 |
チューナ、OP アンプ |
-
下は電源基板の回路図です。
-
[-15V] が低い原因は [C1] 電解コンデンサの容量抜け劣化が原因です。
-
[+28V] に大きなリップルが乗っている原因は [C10] 電解コンデンサの容量抜け劣化が原因です。

-
修理
-
電源基板で2個も電解コンデンサの容量抜けがあるということは、その他の電解コンデンサも劣化していると思います。
-
電源基板の電解コンデンサを以下のように全数交換しました。
電源基板についてはオーバーホールと同じです。
| 基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| 電源基板 |
C1 |
47uF/25V (85℃) |
47uF/35V (105℃) |
電解コンデンサ |
| C4 |
100uF/25V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
| C5 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
| C8 |
220uF/35V (85℃) |
220uF/35V (105℃) |
| C9 |
47uF/10V (85℃) |
47uF/35V (105℃) |
| C10 |
330uF/25V (85℃) |
470uF/25V (105℃) |
| C14 |
33uF/35V (85℃) |
47uF/35V (105℃) |
| C16 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (105℃) |
| C21 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
| C23 |
47uF/10V (85℃) |
47uF/35V (105℃) |
| C24 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (105℃) |
| C25 |
3.3uF/50V (85℃) |
3.3uF/50V (105℃) |
| C26 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
| C27 |
47uF/35V (85℃) |
47uF/35V (105℃) |
| C28 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
-
左の写真は全電解コンデンサ交換後です。
右の写真はこれまで実装されていた劣化した電解コンデンサです。

-
修理後の動作チェック
-
76~90MHz の全周波数で正常に受信できるようになりました。
リペア (その3):その他
-
ディスプレイ窓の内側にススのような汚れが出ている
-
フロントパネルを外して内側を清掃してクリアになりました。
再調整
-
電源電圧チェッック (VP)
-
修理後の電源基板の電圧は以下のように良好でした。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| 電源基板 CN1-1pin |
-15V |
-13.4V |
〇 |
OP アンプ |
| 電源基板 CN1-3pin |
+5.6V |
+5.64V |
〇 |
コントローラ |
| 電源基板 CN1-4pin |
+28V |
+28.0V |
〇 |
VT 電源 |
| 電源基板 CN1-6pin |
+15V |
+14.1V |
〇 |
チューナ、OP アンプ |
-
FM/AM 受信部の調整
-
再調整結果
-
FM 受信
-
フロントエンドの RF トラッキングで調整ズレがありました。
再調整で感度が少し上がりました。
-
PLL 検波で大きく調整ズレしていました。
再調整で規定内に入りました。
-
ステレオセパレーションが 30dB 程度に落ち込んでいましたが、再調整で大きく改善しました。
-
高調波歪率が大きく改善し素晴らしい音質になりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
65 |
62 |
dB |
| NARROW |
59 |
59 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.013 |
% |
| stereo |
0.027 |
% |
| NARROW |
mono |
0.027 |
% |
| stereo |
0.037 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-78 |
-70 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.12 |
dB |
| REC CAL |
WIDE |
mono |
398 |
Hz |
| -6.4 |
dB |
-
AM 受信
-
[純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるように再調整しました。
使ってみました
-
修理&再調整が終わって
-
到着時は一見電源が入らない状態でしたが直せてよかったです。
再調整で本来の性能に蘇りました。
-
FM 性能と音質は素晴らしく良いです。
高級チューナと比べても互角の性能です。
-
デザイン
-
高級感を目指しているのではなく、通信機に近いカチッとしたデザインです。
-
薄型デザインですが、チューナに必要な機能はフル装備です。
-
電波が強力な FM 放送を高音質で聴くには [IF BAND : WIDE] [QUIETING CONTROL : NORMAL] に設定します。
-
感度と音質
-
高級チューナにも匹敵する高性能で、FM 放送を高音質に聴きたい期待に応えてくれます。
-
感度はかなり高く申し分ありません。
-
素性が良いので、
流石に良い音
です。
ハッキリ・クッキリの明瞭度の高い音です。
-
上位機種の
KT-1100D
よりメンテナンス性が良く、構成や性能・音質がほぼ変わらず、お奨めチューナ
-
亡き越谷在住のオーディオ評論家
長島鉄男
さんが絶賛したチューナというのがよくわかります。