KENWOOD L-01T (11号機) が到着
2026年8月10日、石川県能美市の K さんから
KENWOOD L-01T
の修理依頼品が到着しました。
定価16万円
の高級 FM 専用チューナで
パルスカウント検波
です。
この写真は照明を全て LED にリプレースした後です。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
5年前にヤフオクで動作品を落札しました。
-
出品者は
ハードオフ
でジャンク品を買って、転売出品したと判明しました。
-
このため、一通りの動作はしていますが、何らかの不具合を抱えている可能性が大と思います。
-
木製天板の格子部に膨らみがあります。
-
電源 ON すると、FM アンテナを接続しなくてもシグナルメータが 5 に振れます。
-
照明を LED にリプレースお願いします。
-
外観のチェック
-
製造シリアル番号は [10220120] で、電源コードの製造マーキングより [1980年製造品] とわかりました。
-
汚れ・スレ・キズはあるのですが、大きな問題はなくビンテージ品としては受け入れできる外観です。
-
木製天板のフロントパネルに接する中央部分が盛り上がっています。
組立ミスで、ちゃんとミゾに入っていないのです。
-
木製天板の後ろ側にある2つのプラスチック製の大きな放熱用格子が膨らんでいます。
これは直しようがないです。
-
リアパネルの端子類には輝きが残っており問題ないと思います。
-
電源 ON してチェック
-
電源は問題なく入り、ランプ切れはなく、ノブやスイッチ類は正常に反応します。
-
ただし、WORDS 表示 (MUTING など) と三角表示に照明ムラが出ています。
-
白熱ランプが劣化していると思います。
-
[S メータ] [T メータ] は正常に振れて [STEREO] ランプが点灯して放送を受信できました。
-
音は良くステレオ感もあります。
[S メータ] は振り切れる (5より大きい) ので、この再調整が必要そうです。
-
[TUNING] ノブを回すと回転に同期してジャリジャリという雑音が出ます。
バリコンの故障です。
-
[MUTING] スイッチを OFF にして確認するとあちこちの周波数で雑音発生しているのがわかりました。
-
修理依頼者の言う「FM アンテナを接続しなくても S メータが5に振れる」は確認できませんでした。
-
大きな問題は無いので、現状のオーディオ性能を測定してみました。
-
ステレオセパレーションは落ちてはいますが、修理依頼者が言うようなジャンク品ではなさそうです。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
37 |
36 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.086 |
% |
| stereo |
0.086 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-49 |
-48 |
dB |
-
カバーを開けてチェック
-
内部は非常に綺麗です。
通常は基板にゴミがこびりついていることが多いのですが、これがないです。
-
これだけ綺麗だと、おそらく天板の放熱格子を何らかの方法で覆ってゴミの侵入を防いでいたのでしょう。
-
この代償として、内部に熱が籠りプラスチック製の放熱格子が変形したのだと思います。
あくまで推測です。
-
基板を目視で眺めて明らかに劣化とわかる部品は見当たりません。
リペア (その1):照明を LED にリプレース
-
従来の照明回路と [照明基板]
-
従来の照明回路です。
ランプへの給電は AC/DC 混在しています。

-
本機の [照明基板] の状態を確認
-
写真の一番下にあるダイヤル照明用散光板が変形し始めています。
-
この散光板の下にはダイヤル指針があり、もっと変形が進むと散光板に指針が接触して動きが悪くなります。
-
散光板が変形したのは、フィラメントランプの熱に長時間晒されたためです。

-
リプレースに使う LED
-
左の写真のテープ LED は [ダイヤルスケール] [S メータ] [T メータ] [WORDS] 照明に使います。
-
1m あたり高輝度 LED 240個の凄まじい製品です。
発色はウォームホワイト (電球色) です。
-
5mm 砲弾型 LED はセレクタとステレオ表示に使います。
[白色、10000mcd、照射角60度] です。
-
3mm 砲弾型 LED は指針に使います。
[ウォームホワイト色、14400mcd、照射角30度] です。

-
LED 化した表示回路と LED 化した照明基板
-
LED 化した表示回路です。
全て DC 駆動に変更しました。

-
LED 化した [照明基板] の表と裏です。


-
テープ LED にすると [ダイヤルスケール] [メータ] [WORDS] 用散光板は不要になるので除去しました。
-
[セレクタ] [STEREO] 用の散光板はそのまま使いました。
-
[WORDS] 照明の周りにある四角い枠は自作の遮光板です。
-
ボール紙で簡単工作し、黒ラッカー塗装してからボンドで貼り付けました。
サイズは 110(W)×13(H)×10(D) mm です。
-
テープ LED を貼り付ける位置は重要です。
-
LED の中心を基板下から、[ダイヤルスケール] 用 9mm、[S/T メータ] 用 32mm、[WORDS] 用 24mm にします。
-
LED 化完成
-
LED 化後はムラのない非常にスッキリとした素晴らしい表示になりました。
-
L-01T が発売された時代には [高輝度 LED] [高輝度テープ LED] がなかったのです。
技術進歩が LED 化を可能にしました。

-
コメント
-
フィラメントランプの時は 8V/0.15A のランプを23個使っていたので、照明だけで実に 28W 電力消費していました。
-
LED 化後の電力消費は 0.5W くらいで激減しました。
発熱はほぼないです。
SDGs に貢献できます。
電気代も安くなります。
-
長い目で見ると、今回の費用は安くなった電気代で回収できます。
リペア (その2):バリコン軸の接触不良回復
-
概要
-
[TUNING] ノブを回すと回転に同期してジャリジャリという雑音が出ます。
バリコンの故障です。
-
原因
-
下の写真のように全ての [バリコン軸と接触板] の間に緑青サビが出ています。
-
サビは絶縁物なので、バリコン軸で接触不良が発生します。
これが原因です。

-
修理
-
バリコン軸接触不良回復作業を実施しました。
-
エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
-
湧き出た緑青サビを爪楊枝/歯間楊枝/歯間ブラシで丹念に落とします。
-
[1]~[2] を何度も何度も繰り返します。
-
接点復活スプレー
を少量吹きかけ馴染ませます。
-
仕上げに、軸受けに
セラグリス HG
を塗布して防錆処置します。
-
7連バリコンなので結構手間がかかりましたが完了しました。
-
修理後の動作チェック
-
[TUNING] ノブを回してもジャリジャリ雑音が出ないことを確認しました。
リペア (その3):ハンダクラックの予防補修
-
L-01T でハンダクラックの発生しやすい箇所は RCA 端子
-
リアパネルにある [RCA 端子] リードのハンダ付け部にはリアパネルと基板の2方向から常にストレスを受けているので、ハンダクラックしやすいです。
-
右の写真で黄〇で囲んだハンダ付けです。
-
予防補修
-
黄〇で囲んだハンダを一旦除去し、新しいハンダで付け直しました。
-
補修後の動作チェック
-
RCA 端子に挿入したプラグを揺すっても音が途切れることがないことを確認しました。
リペア (その4):電源電圧が異常になっている
-
概要
-
再調整の一番最初で電源電圧の健全性を確認しますが、+16V 電圧が +20V 近くの異常になっていました。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| 電源基板 端子13 |
+14V |
+14.1V |
〇 |
Front End, IF |
| 電源基板 端子15 |
+16V |
+19.8V |
× |
MPX |
| 電源基板 端子17 |
-16V |
-16.4V |
〇 |
MPX |
| 電源基板 端子19 |
+12V |
+12.8V |
〇 |
1'st OSC |
-
調査と原因
-
以下は +16V 電圧を生成する回路です。
経験上、D10 のツェナーダイオードの故障が多いですが、今回は正常でした。
-
[D10-K] 電圧は +6.2V でしたが、[Q6]-E 電圧が +7.2V でオカシイです。
ほぼ同じ電圧が正しいはず。
-
おそらく [Q6] が故障しており、これが原因です。

-
修理
-
以下のリストのように [Q5] [Q6] トランジスタを交換しました。
-
故障しているのは [Q6] ですが、[Q5] も同じ型式なので、念のため一緒に交換しました。
| 基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| 電源基板 |
Q5 |
2SC2320 |
2SC1815-GR |
NPN トランジスタ |
| Q6 |
2SC2320 |
2SC1815-GR |
-
左の写真は交換後の電源基板で、黄〇で囲んだトランジスタです。
-
右の写真は交換前に基板に実装されていた故障したトランジスタです。

-
修理後の動作チェック
-
該当電圧が +16.4V となって正常になりました。
-
コメント
-
通常、電源回路の故障は [電圧が出ない] [電圧が極端に低い] が多く、この場合は、故障が波及することはないです。
-
今回は珍しく [電圧が高い] 故障だったので、この電圧を使っている素子や電解コンデンサの耐圧を超えたかもしれません。
-
回路図でチェックすると ±16V で駆動する AF アンプに使われており、+19.8V になっても耐圧の範囲でした。
-
電圧異常で他の回路が故障することはありません。
ホッとしました。
再調整
-
電源電圧チェッック (VP)
-
電源基板の故障を修理して、実測値は以下のように正常になりました。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| 電源基板 端子13 |
+14V |
+14.1V |
〇 |
Front End, IF |
| 電源基板 端子15 |
+16V |
+16.4V |
〇 |
MPX |
| 電源基板 端子17 |
-16V |
-16.4V |
〇 |
MPX |
| 電源基板 端子19 |
+12V |
+12.8V |
〇 |
1'st OSC |
-
FM 受信部の調整
-
調整結果
-
フロントエンドのトラッキング調整で感度が少し上がりました。
-
到着時にあった [S メータ] が振り切れる原因は、IF WIDE ゲインを上げ過ぎでした。
-
おそらく、誰かが調整を弄ったと思います。
再調整で規定通りになりました。
-
パイロット信号キャンセル調整が大きくズレていました。
-
再調整でパイロット信号キャリアリークが大きく改善しました。
-
ステレオセパレーションや高調波歪率が大きく改善し、音の解像度が上がりました。
-
特にステレオセパレーションは、この機種で最高レベルで、当たりの個体です。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
| NARROW |
31 |
32 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.021 |
% |
| stereo |
0.021 |
% |
| NARROW |
mono |
0.39 |
% |
| stereo |
0.43 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-83 |
-83 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
-0.06 |
dB |
使ってみました
-
修理&再調整が終わって
-
修理依頼者より「ジャンク品の転売オークション出品で詐欺にかかったかも」と聞いていましたが・・・
-
切れた白熱ランプを代替白熱ランプにリプレースしており、マトモな作業がされていました。
-
調整も大きくはズレておらず、ちゃんと再調整されていたと思います。
-
外観もかなり良好なほうで、ジャンクでないような気がします。
オークション出品者がメンテナンスしたのかも?
-
今回もサヨナラホームランを打たれました!
-
再調整に入ってから電源電圧の異常に気が付きました。
まだ本格調整に入る前だったので助かりました。
-
故障は完全に直せたので、安心してご使用ください。
-
L-01T は照明を LED 化したほうが、白熱ランプの時より圧倒的に綺麗な照明になります。
-
23個もの白熱ランプを使って均一な照明ってやはり無理があるのです。
-
白熱ランプが多過ぎるので、かなりの頻度でランプ交換を強いられます。
-
白熱ランプの寿命が1,000~2,000時間に対し、LED は40,000~50,000時間で、少なくとも40倍です。
-
LED 化すれば、まず切れることはなく、消費電力も 1/10 以下になります。
-
L-01T はパルスカウント検波、L-02T は PLL 検波でどちらも良い音ですが、筆者の感性では L-01T のほうが音が良い気がします。
-
特に本機は再調整により、ウットリ惚れる素晴らしく良い音になりました。
-
デザイン
-
デザインはとても良いですが、ともかく大きいです。
-
電源を入れるとダイヤル面などが照明でパッと浮き上がります。
-
チューニングノブから手を離すと、同調サーボロックがかかります。
-
アンテナ端子に F 端子があるのが、ありがたいです。
-
[RF SEL] は [NORMAL] 側 (押し込んだ位置) で使うのが良いです。
-
[DIRECT] 側では RF 増幅アンプが全てバイパスされ、同調回路も2段少なくなります。
-
[DIRECT] は放送電波塔が目の前にあって電波が強過ぎる場合に使うモードです。
-
こういう人はほとんどいないと思うので [NORMAL] にするのが正解なのです、
-
リアパネルにある [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチ
-
[ON] で、ダイヤルスケールとメータ照明が常時点灯します。
-
[OFF] で、ダイヤルスケールとメータ照明がチューニングノブに手を触れた時だけ点灯します。
面白い仕掛けです。
-
感度や音質
-
感度は良好で、高級機らしい安定な受信ができます。
-
音はパルスカウント検波らしいスッキリ感があります。
解像度感のある澄みきった音に聞き惚れます。
低音はよく出ています。
-
NHK FM でクラシック音楽を聴いていると、静寂の中からキラキラ輝く素晴らしい音が飛び出すのを感じます。
S/N が良いです。
-
人の声にもリアルさを感じます。
目の前で話していると錯覚しそうです。
-
素晴らしいチューナです。
ただし、半世紀物ですから新たに入手した場合は多くのリペアが必要になると思います。