SONY ST-S333ESG (16号機) が到着
2024年3月11日、熊本市の K さんより
SONY ST-S333ESG
の修理依頼品が届きました。
程度&動作チェック
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依頼者のコメント
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SONY ST-S333ESG の中古を入手しましたが、Sメータ の振れが少ないです。
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AM は(純正のループアンテナがないので)添付したアンテナで調整をお願いします。
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受信感度の診断、修理、調整やその他、経年劣化に伴う不具合など、修理や部品交換、調整も併せてお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [200228] で、電源コードの製造マーキングより [1989年製造品] とわかりました。
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純正でない [AM ループアンテナ] が添付されていました。
このループアンテナにマッチングするよう調整します。
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右側サイドウッドの最奥の下側で化粧ツキ板が剥がれかかっています。
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リアパネルにある AM ループアンテナを留めるプラスチックの台が割れています。
性能には特に影響しませんが。
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上記以外はかなり綺麗で特に指摘する箇所はありません。
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電源 ON にてチェック
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電源は問題なく入り、ディスプレイの輝度は新品同様に明るく、各ボタンやノブの操作は正常です。
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FM 受信
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S メータの振れが少なく感度落ちしており、MUTING ON では受信できません。
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MUTING OFF にすると受信でき音も出ますが、[STEREO] 表示が出ません。
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オートチューニングで放送局を見つけられません。
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AM 受信
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添付された純正でない [AM ループアンテナ] を接続してチェックしました。
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問題なく受信でき、オートチューニングでき、感度も良いです。
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カバーを開けてチェック
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全体に薄っすらとしたスス状のゴミがあります。
基板は綺麗で、目視で劣化とわかる部品は見られません。
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放送波で FM フロントエンドのトリマコンデンサ [CT101] [CT102] [CT103] を回してみましたが、ちゃんと反応するので問題ないです。
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放送波で同調点調整の [IFT251] を回してみるたら S カーブを検出したので、ここは再調整で直りそうです。
リペア (その1):FM オートチューニングで放送局を見つけられない
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原因
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FM 同調点調整の [IFT251] が経年変化で調整ズレしたためです。
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右の写真で、赤〇で囲んだのが [IFT251] です。
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修理
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[IFT251] を再調整して直りました。
以下の不具合も同時に直りました。
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S メータの振れが少ない。
MUTING ON では受信できない。
[STEREO] 表示が出ない。
リペア (その2):[電気二重層コンデンサ] [タンタルコンデンサ] の交換
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概要
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[電気二重層コンデンサ] は電源 OFF 時のプリセット情報をバックアップします。
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[タンタルコンデンサ] は短絡事故が多く、別の種類のコンデンサに交換すると幸せになります。
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使われていたタンタルコンデンサの耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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換装する積層セラミックコンデンサはタンタルより ESR が低く高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
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交換
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左の写真で、小さな赤〇で囲んだのが [C604]、大きな赤〇で囲んだのが [C605] の交換後です。
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右の写真は交換前に基板に実装されていた [C605] [C604] です。

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以下は交換リストです。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C604 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
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C605 |
0.1F/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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電気二重層コンデンサは 0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
リペア (その3):ハンダクラックの修理
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リアパネルにある端子のハンダクラック状態をチェック
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左の写真で赤〇で囲んだのは、オーディオ出力端子のリードと基板とのハンダ付け部分です。
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右の写真で赤〇で囲んだのは、FM アンテナ端子 A/B のリードと基板とのハンダ付け部分です。
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A/B いずれもリードのハンダ付け部分が同心円状にハンダクラックしています。

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リアパネルの端子類には [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいのです。
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アースバーのハンダクラック状態をチェック
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基板に銅板が走っていますが、これはアースバーです。
チェックしてみると、あちこちでハンダクラックしていました。
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なお、この ST-S333ESG は初期型のようで、アースバーは7本でした。
普通は8本あります。
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修理
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[FM ANTENNA (A/B)] [AM ANTENNA] [OUTPUT] 端子のリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けして直りました。
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7本あるアースバーのハンダ付け部分を補修ハンダ付けして直りました。
リペア (その4):右側サイドウッドの化粧ツキ板が剥がれかかっている
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これ以上剥がれが進行しないよう、木工ボンドで補修しました。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
VP |
表示電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.4V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+15.0V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.9V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.4V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.60V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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同調点調整が大きくズレていました。
再調整で規定内になりました。
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再調整でステレオセパレーションが大きく上がり、以下のように素晴らしい性能になりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
NARROW |
40 |
49 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.0075 |
% |
stereo |
0.019 |
% |
NARROW |
mono |
0.043 |
% |
stereo |
0.043 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-72 |
-72 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.01 |
dB |
CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
463.0 |
Hz |
-6.2 |
dB |
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AM 受信部
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添付された純正でない [AM ループアンテナ] で最高感度になるように調整しました。
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このループアンテナを別のものに交換すると感度が落ちます。
ループアンテナは同調回路の一部なのです。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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この ST-S333ESG は調整ズレはしていましたが状態は良かったです。
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素晴らしい性能と音質に蘇ってよかったです。
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手持ちの [RM-J300] 専用リモコンでの操作も良好でした。
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全体的にブラック基調のデザイン
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SONY デザインはやはり格好イイです。
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デザインが良くて性能も良い、持つべき価値があります。
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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左右のサイドウッドが高級感を醸し出しています。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。