TRiO KT-1100 (7号機) が到着
2025年7月12日、福岡県太牟田市の K さんより
TRiO KT-1100
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
が特長のチューナです。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
約10年稼働させていませんでしたが、2年ほど前から再稼働しました。
-
1年ほど前から FM 受信できなくなりました。
稀に使えることもありますが、5分程で受信できなくなります。
-
AM は問題ないようです。
-
外観
-
製造シリアル番号は [39K10363] で、電源コードの製造マーキングより [1983年製造品] とわかりました。
-
純正 AM ループアンテナが添付されていました。
-
細かいキズ等はありますが致命的なものはなく、並みの中古状態です。
-
リアパネルの RCA 端子に少しクスミはありますが、使用には問題なさそうです。
-
電源 ON してチェック
-
電源は入りましたが、メータ照明ランプが切れています。
-
各スイッチやボリュームは動作します。
[FM REC CAL] ボタン ON で、テスト音が出ます。
-
FM 受信
-
到着後の初回電源 ON では特に問題なく受信できました。
-
[S メータ] [T メータ] が正常に振れ、[STEREO] ランプも点灯しました。
-
サーボロック動作は正常で [SERVO LOCK] ランプも点灯しました。
-
+0.2MHz 程度の周波数ズレ (80.0MHz の放送が 80.2MHz で受信) があります。
-
オーディオ出力の可変端子 (RCA 端子) に接続したプラグを揺すると音が途切れます。
ハンダクラックしています。
-
通電したままにしておいたら、いつの間にか音が出なくなりました。
-
S メータの振れがゼロになり、[TUNING] ノブを回してもどこの放送も受信できません。
-
AM 受信のチェック
-
特に問題なく良好に受信できます。
感度も良いです。
-
[S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合いません。
ここは修理が必要です。
-
カバーを開けてチェック
-
基板には目視で明らかに劣化とわかる部品はないです。
-
左の写真のようにバリコンギア機構のプーリー軸が外れかかっています。
-
黄〇で囲んだ箇所に隙間が見えますが、この隙間がないのが正常です。
-
隙間があるとバックラッシュが大きくなります。
-
更に間隔が広がってプーリー軸が脱落すると修理不能になります。
対策が必要です。
-
右の写真のようにバリコン軸に緑青サビが出ています。
これは直さないといけないです。

リペア (その1):通電後数分で音が出なくなる
-
調査と原因
-
現象が出ている時に FM フロントエンドの OSC トリマコンデンサを回してみたら音が出ました。
-
OSC トリマコンデンサが故障しています。
これが原因です。
-
修理
-
OSC トリマコンデンサはフロントエンド基板に実装されています。
-
正式にはフロントエンドを基板から取り外してトリマコンデンサを交換することになります。
-
フロントエンドを取り外すと糸掛け機構もバラバラになります。
かなりの大仕事!
-
そこで以下の方法としました。
この方法のほうが圧倒的に楽です。
-
左の写真で黄〇で囲んだ部品が故障している OSC トリマコンデンサです。
-
この OSC トリマコンデンサをロングノーズプライヤで毟り取りました。
-
右の写真は新しく外付けした 10pF セラミックトリマコンデンサです。
-
電気的には OSC トリマコンデンサ交換と同じです。

-
修理後の動作確認
-
放送波で軽く調整してから [TUNING] ノブを回して安定に受信することを確認しました。
-
ずっと通電したままにしておいても正常に音が出たままです。
直りました。
リペア (その2):バリコン軸に緑青サビが出ている
-
概要
-
サビは絶縁物なので接触不良となり、以下の現象が出ます
-
周波数の低い辺りで指針を動かすとゴソゴソという雑音が出ます。
-
感度が落ちたり、受信が不安定になったりします。
-
修理
-
以下のようにしてバリコン軸接触不良回復しました。
-
エレクトロニッククリーナ
を軸受けに吹きかけ、何度もバリコンを回転して洗浄します。
-
緑青サビが湧き出るので、これを爪楊枝などで丹念に除去します。
-
手順2~3を何度か繰り返します。
-
接点復活スプレー
を軸受けに吹きかけ、何度もバリコンを回転して接触回復します。
-
最後に軸受けにリチウムグリスを少量塗布して防錆処置します。
-
かなり時間がかかりましたが接触不良は回復しました。
リペア (その3):メータ照明の LED 化
-
概要
-
本機のメータ照明フィラメントランプは両方とも切れていました。
このためメータが真っ暗で支障あります。
-
KT-1100 のメータ照明フィラメントランプは厄介なことにメータに内蔵されています。
-
メータランプは特殊な形状で今では交換品が手に入りません。
そこで LED 化することにしました。
-
リプレースに使う LED と照明回路
-
左の写真の [テープ LED] を使います。
-
幅は 10mm で 12.5mm 単位にカットできます。
1単位あたり LED 3個が搭載されています。
-
4単位にカットしたものを2個使います。
発色はウォームホワイトです。
-
右の回路図が照明回路です。
-
LED は DC 駆動する必要があり、この電源を [C163] 電解コンデンサの両端から取ります。
-
メータあたりテープ LED を4単位使うので、LED×12個分に相当します。
-
電圧・電流の実測値は回路に記入しており、消費電力は 21.2V×3.5mA=0.07W です。

-
テープ LED 取り付けの様子
-
まずはメータ内部のフィラメントランプ+ガイドをニッパで切り取りました。
外部から照射するので邪魔なのです。
-
下の写真はテープ LED を取り付けと配線の様子です。
メータの上部に貼り付いているのがテープ LED です。
-
経年変化しない260℃耐熱ポリイミドテープを使ってテープ LED を貼り付けています。
セロテープではありません。
-
配線材はこれもやや高価な耐熱電線です。
このようにあらかじめプリ配線すると作業がスムーズに進行できます。

-
メータを L-03T に組み込みました
-
左の写真はメータ取り付けの上側で、右の写真は基板裏に取り付けた電流制限抵抗 1.5kΩ の取り付け状態です。
-
この抵抗を増減することで明るさを変更できます。

-
LED 化完成
-
目論見通りスッキリとした綺麗なメータ照明になりました。
-
ウォームホワイト色は電球色ぽくって目に優しいです。
[STEREO] ランプなどと合う明るさに調節してあります。

-
なお、メータをじっくり覗き込むとキラキラした星のような輝きがありますが、これはゴミではなくブラスチックの劣化による内部ヒビ割れです。
フィラメントランプだった時のランプからの熱で経年劣化したと思います。
そう気にするほどではないです。
フィラメントランプの時は暗かったので目立たなかったのです。
リペア (その4):オーディオ出力の RCA 端子でハンダクラックしている
-
ハンダクラックしやすい箇所
-
左の写真は RCA 端子裏側で、リードが直接基板にハンダ付けされています。
-
このハンダ付け部分にはリアパネルと基板の2方向から常にストレスが掛かっているのでハンダクラックしやすいです。
-
右の写真は放熱器が取り付けられたパワートランジタで、リードが直接基板にハンダ付けされています。
-
このハンダ付け部分には放熱器と基板の2方向からストレスが掛かるのでハンダクラックしやすいです。

-
修理
-
修理後の動作確認
-
RCA 端子に挿入したプラグを揺すっても音が途切れることはありません。
直りました。
リペア (その5):バリコンギア機構のプーリー軸が外れかかっている
-
バリコンギア機構のプーリー軸の固定が外れている
-
放置するとプーリー軸が脱落し、ギア機構がバラバラになります。
こうなると修復不能になります。
-
どうやって固定しているのか不明なので、バリコンメーカでないと直せないです。
でもメーカ対応していません。
-
そこで、プーリー軸が脱落しない対策をします。
-
修理
-
まずは、左の写真のようにプーリーの留め位置を左に少しズラして、プーリー軸の先端が最先端になるようにしました。
-
[側板]~[プーリー軸先端] の間に [特注アクリル板] を挿入して、側板から押さえ込んで脱落防止します。
-
寸法測定すると [側板]~[プーリー軸先端] の間隔が 8mm 弱でした。
これより、7mm 厚が適合するとわかりました。
-
当方で常備している [特注アクリル板] の [50×50×5mm] [50×50×2mm] を貼り合わせて 7mm 厚として使いました。
-
これを右の写真のように右側板内側にボンドで接着しました。
-
天板 (側板) を被せて完成です。
直りました。
-
天板を被せた状態ではプーリー軸脱落の心配はありません。
-
天板を外したらプーリー軸が脱落しないよう注意ください。
脱落させてしまうと修理不能になります!
-
天板を被せる際は、プーリー軸を手で押し込んでから天板を取り付けます。

-
修理後の動作確認
-
[TUNING] ノブを回してもバックラッシュが発生せず、指針がスムーズに動くことを確認しました。
直りました。
リペア (その6):その他
-
AM 受信で [S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合わない
-
原因は AM 受信時の [T メータ] センタ調整ズレです。
[VR11] を再調整して直りました。
-
RCA 端子にクスミがある
-
ピカール液
を使って RCA 端子をマイクロ研磨して輝きが復活しました。
-
防錆処置として、RCA 端子に
CRC5-56
を僅かに塗布しました。
-
更に RCA 端子に防塵キャップを被せました。
空気に直接触れることがなくなるのでサビを防止できます。
-
+0.2MHz 程度の周波数ズレがある
-
後述の再調整で直りました。
糸掛け機構を含んだ FM フロントエンドのトラッキング調整をしました。
-
78~88MHz の範囲では±0.1MHz 以内、これ以外ではややズレが大きくなりますがバリコンの精度上やむを得ないです。
-
交換前に実装されていた部品の記念撮影
-
緑色のソーセージのような物体はメータに内蔵されていたフィラメントランプです。
このランプはもうどこにも売っていないです。
-
丸い物体はトリマコンデンサです。
故障現象より、両極がレアショートして時々完全短絡していたと思います。
この時に受信不可になったのです。
再調整
-
電圧チェック (VP)
-
以下のように良好でした。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
| Q19-E |
+13V |
+13.4V |
〇 |
| Q20-E |
-13V |
-13.3V |
〇 |
| Q23-E |
+7V |
+7.34V |
〇 |
| Q24-E |
-7V |
-7.37V |
〇 |
-
FM/AM 受信部の調整
-
調整結果
-
FM 受信
-
OSC トリマコンデンサを交換したのでトラッキング調整をやり直しました。
-
2nd OSC が少しズレていました。
再調整で規定内に入りました。
-
他もあちこちズレていました。
再調整で規定内に入りました。
-
FM ステレオセパレーションや高調波歪率などは以下の通りで、かなり良好です。
-
IF BAND = WIDE/NARROW で高調波歪率が1桁違うので、できるだけ WIDE で使ったほうが良いです。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
67 |
70 |
dB |
| NARROW |
61 |
66 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.018 |
% |
| stereo |
0.018 |
% |
| NARROW |
mono |
0.20 |
% |
| stereo |
0.24 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-84 |
-81 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.02 |
dB |
| FM REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
398 |
Hz |
| -6.0 |
dB |
-
AM 受信
-
添付された [純正 AM ループアンテナ] で調整しました。
-
そうズレはありませんでした。
受信周波数が高いほうでやや感度が落ちていましたが直りました。
使ってみました
-
デザイン
-
ブラックの KT-1100 は L-03T とそっくりです。
前者はパルスカウント検波、後者は PLL 検波と、どちらも高音質モデルです。
-
デザインが巧妙で高級感があります。
-
フロントパネルはアルミヘアライン仕上げです。
-
チューニングノブは直径 46mm の無垢アルミです。
-
ダイヤルスケールは正面を向いており照明はありません。
ダイヤル指針が赤い LED 表示で見易く精密感があります。
-
感度や音質
-
FM の感度は良く、TRiO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度はかなり良いです。
-
やはり、パルスカウント検波の音は良いです。
別格です。
-
AM は高感度で S/N が高いです。
-
WIDE/NARROW 切り換えが有効で、WIDE 時はかなり高音が出て高音質です。
-
AM 放送は2028年終了
なので聴けるのも今のうちです。