TRIO KT-8300 (4号機) が到着
2026年4月9日、石川県能美市の K さんより
TRIO KT-8300
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
で
FM 専用機
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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外観のチェック
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製造シリアル番号は [840538] で、電源コードの製造マーキングより [1978年製造品] とわかりました。
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全体にかなり綺麗な逸品です。
もちろん、よくよく見れば細かいキズ&スレはあるのですが目立ちません。
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リアパネルの端子類にも輝きが残っています。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、ランプ切れはありませんでした。
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音が出ず、[STEREO] ランプも点灯しません。
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[S メータ] [T メータ] は正常に振れサーボロックも正常に動作するので、パルスカウント検波の前までは正常です。
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しばらく通電していたら「ザリザリ」「バリバリ」という大きな雑音だけが出るようになりました。
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以上より、おそらくパルスカウント検波周りが故障していると思います。
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音が出ないのでダイヤル指針と [T メータ] を頼りに -0.7~-0.6MHz 程度の周波数ズレがあります。
89.7MHz の放送が 89MHz で入感
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カバーを開けてチェック
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基板全体に薄っすらとススのような汚れがあります。
動作には支障はなさそうです。
リペア (その1):音が出ない
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調査と原因
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現象より不具合部位を推定
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[S メータ] [T メータ] の動きが正常なので、[フロントエンド]~[1st IF] は正常です。
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[STEREO] ランプが点かないことより、MPX より前の異常です。
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総合すると [2nd IF]~[パルスカウント検波] に不具合があるということになります。
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下の回路図は [2nd IF]~[パルスカウント検波] の部分です。
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[FL1] [FL2] [FL3] の LC フィルタが使われており、これらの故障が散見されます。
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このうちのどれが故障してもバリバリ雑音や音が出ないなどの現象が出ます。
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LC フィルタにはチタコンを内蔵しており、チタコンがマイグレーションで故障するのです。

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右の写真は [FL1] [FL2] [FL3] です。
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[FL1] [FL2] は 2nd IF の 1.96MHz の不要成分を取り除きます。
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[FL3] はパルスカウント検波出力の不要成分を取り除きます。
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どのフィルタが劣化してもバリバリ雑音などが出ます。
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最初に [FL3] 周りを調べてみました。
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[IC7] TR4010 の 8pin の電圧を DMM で測定すると、雑音に同期して 0.3~1.2V の間でフラフラ動き、異常でした。
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上の回路図に記入されている参考電圧は 8.6V で、0.3~1.2V は極端に低いのです。
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どうやら [FL3] が故障しています。
これが原因です。
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修理
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下の写真は [FL3] を基板から外して眺めたものです。
裏側でチクワの形をした部品がチタコンです。
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3個あるチタコンは全部真っ黒になって劣化しています。

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チタコンを3個とも除去して [FL3] を基板に戻しました。
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左の回路図は [FL3] の内部回路です。
チタコンは 47pF、82pF×2個 を使っています。
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除去したチタコンの代わりに基板の裏側で、右の写真のように 30ppm/℃ 温度補償積層セラミックコンデンサを取り付けました。

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修理後の動作チェック
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FM 受信で [STEREO] ランプが点灯して綺麗な音が出るようになりました。
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もちろん、「ザリザリ」「バリバリ」という雑音は発生しません。
リペア (その2):-0.7~-0.6MHz 程度の周波数ズレがある
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調査と原因
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周波数ズレは正常であればフロントエンドの OSC トリマコンデンサを調整すれば直ります。
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ところが OSC トリマコンデンサを調整してもほとんど容量変化せず、故障しています。
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この OSC トリマコンデンサが劣化故障したのが原因です。
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修理
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左の写真は OSC トリマコンデンサ交換前で黄〇で囲んだ部品です。
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右の写真は交換後でセラミックトリマコンデンサ 10pF を使いました。

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修理後の動作チェック
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OSC トラッキング調整して指針が示す周波数はほぼ正しくなりました。
僅かな周波数ズレはバリコンの精度に依るので止む得ないです。
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同時に受信感度が上がり、S メータで 4.2→4.8 となりました。
リペア (その3):バリコン軸と接触プレートの間に緑青サビが出ている
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概要
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修理前は音が出なかったのでわからなかったのですが、[TUNING] ノブを回すと回転に同期してガッガッという雑音が出ました。
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左の写真はバリコンの全景です。
全てのバリコン軸と接触プレートの間に緑青サビが出ています。
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右の写真はバリコン軸と接触プレートの拡大で、わかり辛いと思いますが、緑っぽいのが緑青サビです。
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サビは絶縁体ですから接触不良を発生させ、バリコンの容量が不安定になって、雑音や感度低下となります。
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これが原因です。
古いバリコンではよくある故障です。

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修理
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業しました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射してから、何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを刷毛や爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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軸受けに
接点復活スプレー
を塗布してバリコンを回転して馴染ませます。
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仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
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結構手間がかかりましたが、多くの緑青サビが除去できました。
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修理後の動作チェック
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バリコン (TUNIG ノブ) を回しても雑音は出なくなりました。
良好です。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
| Q19-E |
+14V |
+13.7V |
〇 |
| D19-A |
-13.5V |
-13.8V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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フロントエンドの OSC トリマコンデンサを交換したので OSC トラッキング調整をやり直しました。
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フロントエンドの RF トラッキング調整で感度が大きく上がりました。
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再調整でステレオセパレーションや高調波歪率などが大きく改善し、音の解像度が上がりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
68 |
62 |
dB |
| NARROW |
58 |
57 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.015 |
% |
| stereo |
0.015 |
% |
| NARROW |
mono |
0.29 |
% |
| stereo |
0.29 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-65 |
-63 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.01 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時は音が出ない重症患者でしたが、部品交換等で見事にパルスカウント検波の素晴らしい音が出るようになりました。
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新品時かそれ以上の性能になりました。
高性能・高音質です。
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デザイン
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デザインは秀逸ですがが、ともかくデカイです。
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フロントパネルは 5mm 厚のヘアライン仕上げアルミで良好です。
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電源を入れるとダイヤルスケールが浮き上がって表示され、美しいです。
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受信性能&音質
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感度や妨害波排除能力は良いです。
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音は無味無色のパルスカウント検波そのものです。
とっても良い音です。