KENWOOD KT-880F (4号機) が到着
2025年12月16日、岡山県井原市の A さんより
KENWOOD KT-880F
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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1986年9月に新品で購入したワンオーナー品です。
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5年前にヘッドホンで「らじるらじる」と KT-880F の音を聴き比べました。
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KT-880F の方が高音・中域音・低音すべてにおいて雑な音で、ガッカリしました。
点検お願いします。
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感度が下がっているように感じます。
左右の音声セパレーションが下がっているように思います。
点検お願いします。
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AM は、純正アンテナを添付しますので、このアンテナで調整をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [66K11219] で、電源コードの製造マーキングより [1986年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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汚れはありますが、ワンオーナ品のためか特に問題はありません。
綺麗な逸品です。
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リアパネルの端子類にも輝きが残っています。
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電源 ON してチェック
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正常に電源が入りディスプレイは新品同様な明るさです。
操作ボタンは正常に反応します。
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FM 受信
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電源 ON した直後は全く FM 受信できませんでした。
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放送局の周波数に周波数に合わせても [S メータ] が全く振れません。
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どの周波数に合わせてもシャーという局間雑音しか聞こえません。
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この時、AM 受信は問題なかったので FM 受信時だけの問題です。
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「あれれ?」と思って、AM に切り換えたりしていたら急に受信できるようになりました。
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しかし、82MHz 以上の放送局を受信できません。
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受信できる放送は [S メータ] がフルに振れ [STEREO] 表示も出て正常そうです。
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82MHz の放送は [S メータ] が全く振れません。
この現象より VT 電圧に何らかの異常があると思います。
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AM 受信
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カバーを開けてチェック
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目視でわかる部品の劣化は見当たらず、状態は良いです。
リペア (その1):電源 ON した直後は全く FM 受信できない
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調査と原因
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これはかなりの確率で電源 OFF→ON した時に発生して再現性あります。
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VT 電圧をオシロスコープで観測すると DC 電圧なのに 3Vp-p くらいのリップルが乗ります。
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VT 電圧の元電源の +28V をオシロスコープで観測してもリップルは乗っていません。
これが要因ではありません。
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こうなると、①→[FM OSC]→[OSC Buffer]→[PLL 制御回路]→[VT 電圧生成]→① の PLL ループのどれかの異常です。
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まずは [FM OSC] の発振波形をオシロスコープで観測すると、OSC Buffer 出力 (Q5-C) で 200mVp-p くらいの波形しか出ていません。
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[FM OSC] の発振に使われているトランスタ [Q4] 2SC1923 が劣化していると思います。
これが原因です。
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修理
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以下の交換リストのように、劣化故障していたのは [Q4] でしたが、念のため [Q5] も一緒に交換しました。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| Q4 |
2SC1923-R |
2SC1923-Y |
OSC 発振用トランジスタ |
| Q5 |
2SC1923-R |
2SC1923-Y |
OSC Buffer 用トランジスタ |
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左の写真は交換後で黄〇で囲んだトランジスタです。
上が [Q4]、下が [Q5] です。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた劣化したトランジスタです。

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修理後の動作チェック
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OSC Buffer 出力波形の波高値が 2Vp-p と大きくなったことを確認しました。
不具合時の10倍の電圧です。
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全ての周波数で [S メータ] がフルに振れて良好に受信できることを確認しました。
リペア (その2):プリセットメモリのバックアップ用コンデンサ交換
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概要
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プリセットメモリは電解コンデンサの [C154] 2200uF/6.3V でバックアップします。
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製造から39年経っているので、安心のため電解コンデンサより容量が大きい電気二重層コンデンサに交換します。
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修理
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以下のリストのように部品交換しました。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C154 |
2200uF/6.3V (電解コンデンサ) |
0.22F/5.5V (電気二重層コンデンサ) |
プリセットメモリバックアップ用 |
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左の写真は交換後で、黄〇で囲んだ部品が電気二重層コンデンサです。
人差し指の爪くらいで小さいです。
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右の写真はこれまで実装されていた電解コンデンサです。
大きいのに電気二重層コンデンサの1/100の容量しかありません。

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コメント
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オリジナルの電解コンデンサの時は、プリセットメモリバックアップ時間は3日間がスペックです。
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2200uF→0.22F と100倍の容量になったので単純計算ではバックアップ時間300日 (10ヶ月) になりますが・・・
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電気二重層コンデンサの自己放電もあるので、実際には数ヶ月と思います。
リペア (その3):ハンダクラック予防対策
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KT-880F でハンダクラックしやすい場所
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左の写真は [OUTPUT] 端子の裏側です。
右の写真は [FM ANTENNA] [AM ANTENNA] 端子の内側です。
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これらの端子のリードのハンダ付け部は [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けているのでハンダクラックしやすいです。

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修理 (予防対策)
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基板の裏側で上記の端子のハンダ付け部を補修ハンダ付けしました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように正常でした
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| 電源基板 CN1-2pin |
+5.6V |
+5.61V |
〇 |
コントローラ |
| 電源基板 CN1-3pin |
+28V |
+28.4V |
〇 |
VT 電源 |
| 電源基板 CN1-5pin |
+14V |
+14.3V |
〇 |
チューナ、OP アンプ |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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OSC のトランジスタを交換したのでトラッキング調整をやり直しました。
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TP5~TP6 間の同調点電圧が 190mV 程度とやや大きいズレがありました。
再調整で規定内に入りました。
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PLL 検波でやや大きいズレがありました。
再調整で規定内に入りました。
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ステレオセパレーションは到着時に 30dB しかありませんでしたが、再調整で大幅向上しました。
30dB→70dB なので100倍の向上!
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音の解像度が大きく向上しました。
今や高級機と変わらない素晴らしく良い音です。
| 項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
70 |
70 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.019 |
% |
| stereo |
0.019 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-80 |
-79 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
-0.10 |
dB |
| REC CAL |
mono |
375 |
Hz |
| -6.0 |
dB |
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AM 受信
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添付された [純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるよう調整しました。
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現在の AM 放送は2028年でほぼ消滅するし、本機のような音の良いチューナで AM を聴く人はいないだろうし。
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FM 周波数コンバータ
を使えば KT-880F でもワイド FM を受信できます。
FM で AM 放送を聴くほうが正解です。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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本機は OSC 発振用トランジスタが故障する滅多にない故障でした。
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いつ頃から劣化し始めたのかわかりませんが、同調が不安定になるので受信できても音に悪い影響が出ていたはずです。
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ちゃんと直せて良かったです。
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デザイン
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筐体の高さが低いのでスリム感があります。
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プリセットメモリは FM/AM ランダムに16局分あり十分です。
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FM アンテナが簡易 F 端子なので妨害電波の混入を防げます。
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性能&音質
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FM の感度と妨害電波排除能力は素晴らしく良いです。
FM フロントエンドの性能が余程良いのでしょう。
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FM の音質は非常に良いです。
歪感が少なく、輪郭がハッキリで、スッキリした音の出かたです。
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KT-880F は KT-1010F の下位機種ですが、兄貴に負けない性能があります。
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AM の感度は良く音もマアマアです。
このチューナで AM を聴く人はほとんどいないと思われ、オマケみたいなものです。