TRIO KT-7700 (5号機) が到着
2026年3月13日、長崎県大村市の F さんから
TRIO KT-7700
の修理依頼品が到着しました。
定価7.8万円
の FM 専用チューナで、検波は
マルチプリケーティブ・ディスクリミネータ
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ハードオフで4~5年くらい前に正規中古品として購入しました。
ジャンクコーナーではありません。
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購入後2~3ヶ月くらいで音が出なくなり、そのままになっていました。
電源は入ります。
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外観のチェック
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製造シリアル番号は [420433] で、電源コードに製造マーキングが見当たらなったのでここからは製造年がわかりませんでした。
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全体的にはかなり綺麗でキズ等もほぼない逸品です。
ダイヤルスケールの内側も綺麗です。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入りました。
フィラメントランプ切れはないです。
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[mode] スイッチを mpx filter 位置にしても [mpx filter] LED が切れているのか点灯しません。
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[stereo] [narrow] LED は正常に点灯します。
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(筆者の環境では) [S メータ] がフルに振れ、[STEREO] ランプが点灯し、ステレオ音が出ます。
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[T メータ] [D/M メータ] の動作も正常です。
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修理依頼者のいう「音が出ない」は12時間連続通電しても再現しませんでした。
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修理と言うのは現象が確認できないと、どこを調べればよいか検討もつかないです。
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カバーを開けてチェック
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内部はシャーシやフレームに錆はなく、基板も非常に綺麗です。
目視で明らかに劣化とわかる部品は見当たりません。
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使用している IC のロット番号より、本機は [1976年製造品] とわかりました。
もう半世紀物ビンテージです。
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[mpx filter] LED が点灯しない原因は LED の故障と判明しました。
回路側の問題ではなかった。
リペア (その1):音が出ない ・・・ 修理依頼者より
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調査と推定原因
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修理依頼者よりは「音が出ない」と聞いていたのですが、当方で12時間通電しても再現しませんでした。
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従って、筆者は「音が出ない」不具合を一度も確認できていません。
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修理依頼者に症状の詳細を確認
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電源を入れてしばらく聴いていたら音が出なくなり始めました。
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初期の頃は [一瞬音が出ない]→[自然に復旧] ということもありました。
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そして、最後は全く音が出なくなりました。
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音が出なくなったので使用を止め、最近は電源を入れていませんでした。
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修理依頼者に音が出ない状態になった時の状態を確認
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[S メータ] [T メータ] は正常に振れていたか?
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ハッキリ覚えていないが、音声が出ない時にもメーターはそのままだったように思う。
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[STEREO] ランプは点灯していたか?
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電波が弱く、いつもモノラルで聴いているのでわからない。
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推定原因
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音が出なくなった時に [S メータ] [T メータ] が正常だったら、アンテナ入力~検波までは正常です。
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MPX 以降はステレオ回路なので、左右チャンネルのどちらか一方が故障、もう一方が正常が普通です。
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両チャンネルから音が出ないのはミューティング回路が誤動作している可能性が高いです。
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電源 ON/OFF 時のポップノイズを消去するための [電源ミューティング] 回路が誤動作したと推定します。
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修理
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下の回路図は [電源基板] です。
赤線で囲んだ部分が [電源ミューティング] 回路です。
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赤矢印のところの電圧が +2V 以上なら [電源ミューティング] 解除、それ以下の電圧なら [電源ミューティング] 状態です。
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放送受信中に赤矢印のところを GND に短絡して模擬故障状態にして KT-7700 の状態を確認しました。
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[S メータ] [T メータ] [D/M メータ] は正常に振れ、[stereo] ランプは点灯、音だけが出ない状態になりました。
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これは修理依頼者が確認した不具合状態と一致します。
[電源ミューティング] 回路の一時的故障の可能性が高いです。

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タンタルコンデンサが使われており故障しやすいです。
今回の推定では、このタンタルコンデンサを疑っています。
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タンタルコンデンサは ESR が低く高域特性が良いということで、半世紀前は (高価なので) 限定的に使われいました。
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ところがタンタルコンデンサは短絡故障しやすいという欠点があり、現在では使用禁止にしている会社が大半です。
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そこで今時なので、下のリストのように無極性で特性の優れた積層セラミックコンデンサに交換しました。
| 基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
| 電源基板 |
Ck13 |
3.3uF/25V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
| Ck14 |
6.8uF/25V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
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左の写真は交換後で、黄〇で囲んだのが積層セラミックコンデンサです。
米粒くらいで小さいです。
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積層セラミックコンデンサはタンタルコンデンサより ESR が低く高域特性も上です。
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積層セラミックコンデンサはタンタルコンデンサが抱えている「短絡しやすい」欠点もありません。
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従って、現代の設計では積層セラミックコンデンサを使うのが普通になっているのです。
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右の写真はこれまで基板に実装されていたタンタルコンデンサです。

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修理後の動作チェック
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本機を電源 ON して正常に放送を受信して音が出ることを確認しました。
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この対策が当たっていることを祈ります。
リペア (その2):[mpx filter] LED が切れている
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概要
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[mpx filter] LED が点灯せず、原因は LED そのものの故障と判明しています。
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半世紀前の LED を現代の LED にそのまま置き換えると明る過ぎになります。
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[stere] [narrow] [mpx filter] の LED は並んでいるので、1個だけ交換すると、その他とバランスが悪くなります。
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そこで LED を3個とも一斉交換し、電流制限抵抗を交換して輝度を下げる、という処置をします。
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修理
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LED 駆動回路は以下のようになっています。
電流制限抵抗は [R159] [R21] [R158] で、電流は 10mA です。

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現代の LED で単純に置き換えると明るくなり過ぎるので、以下のように抵抗を交換しました。
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1kΩの時は 10mA でしたが、33kΩにすると 0.3mA になります。
これでも以前の LED より少し明るいです。
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以前の LED は暗めだったので、今回の明るさのほうが良いです。
| 基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| チューナ基板 |
R159 |
1kΩ |
33kΩ |
stereo 用 |
| R21 |
1kΩ |
33kΩ |
narrow 用 |
| R158 |
1kΩ |
33kΩ |
mpx filter 用 |
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下は古い LED です。
黒いゴム製のホルダに入れて設置しています。
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LED 先端には直径 2mm の円柱形の突起があります。
突起の長さは 4.5mm です。

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下は交換する LED です。
少し形状は違いますが、先端の突起など寸法的に互換性があります。
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最新の LED なので最大輝度は 500mcd で、オリジナルの LED より50倍以上明るいです。

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左の写真は LED リプレース後です。
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黒いゴム製ホルダとパネルとは両面テープで接着し、更に G17 ボンドを塗布して設置強度を確保しました。
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上記のホルダ設置方法はオリジナルと同じやり方です。
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右の写真はリプレースで不要になった古い LED と電流制限抵抗です。

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修理後の動作チェック
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対象の LED が機能通りに点灯・消灯することを確認しました。
リペア (その3):バリコン軸の接触回復
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本機は半世紀物ビンテージです。
バリコン軸の接触回復は必須です。
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フロントエンドのカバーを外してバリコン軸と接触プレートをチェックしました。
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すると、左の写真のように全ての接触プレートに緑青サビが出ていました。
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もう少し近付いて観察したのが右の写真です。
緑色に見える汚れのようなものは緑青サビです。
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緑青サビは絶縁物ですから [感度低下] [同調ノブ操作でガサガサという雑音発生] などの障害の元になります。

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バリコン軸接触回復作業
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軸受けに
エレクトロニッククリーナ
を噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]~[2] を何度も何度も繰り返します。
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軸受けに
接点復活スプレー
を噴射して馴染ませます。
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仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
以上で接触回復しました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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電圧の実測値は以下のように良好でした。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
| 電源基板 14pin (+B) |
+13V |
+13.3V |
〇 |
| 電源基板 18pin (-B) |
-13V |
-14.0V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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全体に +0.1MHz 程度の周波数ズレがありましたが、OSC トラッキング調整で指針の示す周波数がほぼ一致しました。
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再調整前に 40dB 程度だったステレオセパレーションが大きく上がりました。
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再調整で以下のような素晴らしいオーディオ性能に蘇り、聴き違えるほど良い音になりました。
| 項目 |
IF band |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
68 |
70 |
dB |
| narrow |
28 |
28 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.045 |
% |
| stereo |
0.054 |
% |
| narrow |
mono |
0.48 |
% |
| stereo |
0.48 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-79 |
-77 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
wide |
mono |
0 |
+0.13 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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KT-7700 を久しぶりに手掛けましたが、あらためて作りが良いと思いました。
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フロントエンドに使用しているバリコンが素晴らしく立派です。
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調整していてもすごく安定な数値を叩き出して、やはり高級機だなぁ~と思いました。
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値段だけのことはあります。
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再調整で KT-7700 本来の素晴らしい性能と高音質に蘇りました。
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デザイン
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ともかく大きくて重いですが、
測定器のような素晴らしい作り
です。
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フロントパネルは 4mm の分厚いアルミ材で高級感あります。
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天板や側板の作りは良く頑丈です。
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ダイヤルとメータに照明があって、ON すると浮き上がって素敵です。
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チューニングノブは直径 42mm の光沢アルミ材で高級感あります。
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チューニングノブでダイヤル指針は、高級感のある動きをします。
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最前面の透明パネルと内部の周波数パネルがガラスでできています。
このため透明度が高く高級感バッチリです。
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感度や音質
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放送を聴くと、とても良い音が出ます。
派手さが少なく歪感がない大人しい良い音です。