TRiO KT-990 (5号機) が到着
2026年4月10日、長崎県大村市の F さんより
TRiO KT-990
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
が特長のチューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ダイヤルが本体にあたって回りにくいです。
受信はします。
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透明フロントパネルの内側がホコリが入っていて気になります。
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外観のチェック
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製造シリアル番号は [30701096] で、電源コードの製造マーキングより [1982年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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よくこの状態で残っていたと感動するような、全体にかなり綺麗な逸品です。
ただし、透明ガラスの内側に綿ボコリが見えます。
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フロントパネルの上側が手前に傾いており、[TUNING] ノブの上側が当たって回りにくいです。
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おそらく、フロントパネル内側にある固定タブ (プラスチック) が割れているのでは?
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リアパネルの端子類に輝きがあって、良い状態です。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に入り、ランプ切れは無く、スイッチ類は正常に反応します。
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FM 受信
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89.7MHz の放送が 89.5MHz、80.0MHz の放送が 79.8MHz で受信します。
-0.2MHz 程度の周波数ズレです。
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[S メータ] はフルに振れ、[STEREO] ランプが点灯して正常に受信できます。
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[SERVO LOCK] ランプは [TUNING] ノブから手を離すと点灯し、正常にロックがかかります。
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[REC CAL] ボタン ON で正常にテスト音が出ます。
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AM 受信
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添付された純正 AM ループアンテナで感度よく受信できます。
特に問題なさそうです。
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カバーを開けてチェック
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内部はかなり綺麗でホコリがありません。
基板や各種 IFT コイル外装メタルもピカピカ輝いています。
素らしく状態が良いです。
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この機種で散見される [バリコンギア機構のプーリー軸外れ] はないです。
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左の写真のように、バリコンには軸とアースプレートに緑青サビが出ています。
緑色に見える部分が緑青サビです。
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右の写真のように、フロントパネルを内部で固定するプラスチックタブの根元が割れています。
写真は左側タブ
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タブは左右に2個ありますが、どちらも同じ状態でした。
フロントパネルの上側が手前に傾いている原因です。

リペア (その1):フロントパネルを内部で固定するプラスチックタブが割れている
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原因
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プラスチックが経年変化でもろくなったのと、おそらく、アンプのような重い機器を重ね置きしたと想像します。
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KT-990 のフロントパネルの上側を留めるプラスチックタブは薄いので、荷重がかかると割れてしまいます。
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修理
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割れたプラスチックの修理は無理なので、新たに銅板で留め金具を製作して修理します。
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金具を作るにしてもスペースの余裕のない箇所に無理矢理入れる必要があります。
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薄くて強度のある、そして加工しやすい素材ということで銅板を使います。
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下の写真は挿入した銅板金具の表と裏の取付状態です。
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厚み 0.25mm の銅板を 25×37mm に切り出し、元の取付ネジ穴と合う位置に直径 3.2mm の穴を開けます。
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G17 ボンドで銅板をネジ穴に合う位置に接着します。
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天板に穴を開けて結合したほうが強度が出るのですが、天板に不細工なネジが見えるのはイヤでしょ。
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すなわち、取付強度は G17 ボンド接着によります。
そう過大な重量には耐えられないです。
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割れたプラスチックは銅板上に接着していますが、これは取付強度に関しては何の役にも立っていません。
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元の取付位置を示す指標として貼り付けただけです。
飾りみたいなものです。
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写真は左側の銅板金具ですが、右側にももう1枚の銅板金具があります。
全部で2枚 (2箇所) です。

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下の写真は銅板金具を接着中の様子です。
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G17 ボンドがしっかり接着してくれるまで、ほぼ丸一日かかり、この間なにもできません。
作業待機時間が長いです。

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完成です。
フロントパネル上側タブがシッカリ留まりました。

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修理後の動作チェック
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フロントパネルの上部固定がしっかりとできていることを確認しました。
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繰り返しますが、
天板の上に重量物を重ね設置禁止!!!
リペア (その2):バリコン軸とアースプレートに緑青サビが出ている
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サビは絶縁物なので接触不良となり、以下の現象が出ます
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周波数の低い辺りで指針を動かすとゴソゴソという雑音が出る。
感度が落ちたり、受信が不安定になったりする。
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業をしました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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軸受けに
接点復活スプレー
を塗布して何度もバリコン羽を動かして馴染ませます。。
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仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました
リペア (その3):ハンダクラック予防補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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左の写真は [RCA 端子] の裏側です。
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端子のリードが基板に直接ハンダ付けされており、リアパネルと基板の2方向からストレスが掛かるのでハンダクラックしやすいです。
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右の写真は [Q22] パワートランジタです。
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ハンダ付け部分は自ら発する熱でハンダが劣化してクラックしやすいです。

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修理
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[RCA 端子] [Q22] のハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
リペア (その4):その他
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フロントパネル透明ガラスの内側に綿ボコリが見える
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フロントパネルを分解して [最前面の透明ガラスの内外] [周波数ダイヤル板の表裏] を清掃しました。
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フロントパネルの周波数ダイヤルなどのコントラストが上がりクッキリ見えるようになりました.
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指針が示す周波数は -0.2MHz 程度ズレている
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OSC トラッキング調整で指針が示す周波数がほぼ合うようになり、±0.1MHz 以内の誤差になりました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
| J151 |
+14V |
+13.9V |
〇 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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FM フロントエンドの OSC トラッキング調整で、指針と周波数ダイヤルのズレは ±0.1MHz 以内に入りました。
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FM フロントエンドの RF トラッキング調整で、感度が大きく上がりました。
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再調整でステレオセパレーションと高調波歪率が大きく改善し、音の解像度が上がり、良い音になりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
56 |
53 |
dB |
| NARROW |
53 |
51 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.045 |
% |
| stereo |
0.045 |
% |
| NARROW |
mono |
0.30 |
% |
| stereo |
0.30 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-50 |
-51 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.01 |
dB |
| REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
422 |
Hz |
| -6.0 |
dB |
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AM 受信
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添付された [純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるよう調整しました。
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なお、
AM 放送は2028年でほぼ終了
します。
聴けるのは今のうちです。
[NHK AM 第二放送] は2026年3月31日に終了しました。
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KT-990 で FM に移行した元 AM 放送 (ワイド FM) を聴くには
周波数コンバータ
を製作するとよいです。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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本機は非常に状態が良く、これまで大切に丁寧に使われてきたと思います。
こういう品物はメンテナンスもやりやすいです。
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フロントパネル上部のタブ破損は基本的には設計不良と思います。
タブが薄くて強度不足なのです。
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今回、タブを銅板で新調して置き換えたので、オリジナルより強度があると思います。
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やはり KT-990 のパルスカウント検波の音は素晴らしいです。
この方式のチューナはもう売られていないので、本機は貴重品です。
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デザイン
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デザインが優れた薄型チューナです。
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ダイヤルスケール部全体がイルミネーション照明されており綺麗です。
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ダイヤルスケール部には本物の強化ガラスが使われています。
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チューニングノブは直径 41mm の無垢アルミに輝きのあるスモークアルマイト処理がされており、質感があります。
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感度や音質
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FM は TRiO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。
別格です。
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AM は高感度で S/N が高いです。
[IF BAND] を WIDE にすると高音がよく出ます。