Victor FX-711 (10号機) が到着
2025年6月8日、千葉県船橋市の O さんより、
Victor FX-711
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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セカンドシステムの予備として昨年ジャンク品を購入しました。
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FM が全く受信しません。
修理をお願いします。
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外観
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製造シールが剥がれており製造シリアル番号は不明です。
電源コードの製造マーキングは [1986年] でした。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付はありませんでした。
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フロントパネルはかなり綺麗です。
天板への折り返しエッジに僅かな当てキズがありますがそう目立ちません。
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リアパネルは綺麗で RCA 端子には輝きが残っています。
アンテナ端子はくすんでいますが使用には問題ないです。
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天板にはスレと右奥に変形があります。
ピカッとした輝きがあるので良いほうです。
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底板に白いサビが出ていますが問題はないです。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく ON できました。
FL 表示管の輝度は新品同様です。
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各種ボタンは正常そうに反応します。
チャタリングはほぼないです。
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FM 受信
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全く受信できません。
MUTING OFF にするとザーっぽいホワイトノイズが出ます。
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電源を入れ放ししておいたら、ごくたまに一瞬受信できることもありました。
完全に壊れている訳ではなさそうです。
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AM 受信
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[純正 AM ループアンテナ] が付属していなかったので、右の写真の筆者が標準にしているループアンテナを接続してチェックしました。
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SONY ST-SA5ES などの大型ループアンテナです。
中古市場によく出ています。
横幅 28cm、高さ 12cm くらいのサイズです。
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このアンテナと FX-711 の相性は良かったです。
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S メータの dB 表示は正常そうで十分なレベルがあり、感度落ちはなさそうです。
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カバーを開けてチェック
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内部はは非常に綺麗です。
目視で問題がありそうな部品は見当たりません。
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使用 IC のロット番号より本機は [1987年製造品] とわかりました。
リペア (その1):FM 受信できない
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調査と原因
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FM 受信できないのは [FM OSC が発振していない] [FM OSC 周波数取り込み故障] [VT 電圧が出ていない] が考えられます。
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AM 受信できるので [VT 電圧が出ていない] ではないです。
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調べると [FM OSC が発振していない] と判明しました。
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[FM OSC が発振していない] のは OSC トリマコンデンサが故障して短絡したのが原因とわかりました。
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同じトリマコンデンサは全部で5個使われています。
この際、サクッと全数交換することにします。
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修理
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左の写真はトリマコンデンサ交換後で、赤〇で囲んだ部品です。
セラミック型 10pF に全数交換しました。
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右の写真はこれまで実装されていた故障したトリマコンデンサです。
ハトメ部分が接触不良になるのです。

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修理後の動作確認
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トリマコンデンサ交換後にトラッキング調整をして FM 受信できることを確認しました。
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ただし [STEREO] 表示が出ない新たな不具合を確認しました。
今まで FM 受信できなかったのでわからなかったのです。
リペア (その2):FM 受信で [STEREO] 表示が出ない
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原因
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修理
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FM 同調点検出 IFT [T206] を再調整して直りました。
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修理後の動作確認
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[STEREO] 表示が出て音にもステレオ感があることを確認しました。
リペア (その3):ハンダクラック予防補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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左の写真のように [OUTPUT] [AM ANT] [FM ANT] 端子のリードは基板にハンダ付けされています。
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これらのリードにはリアパネルと基板からの2方向からストレスを受けるので、ハンダクラックしやすいです。
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左の写真のように放熱器が付いたパワートランジスタのリードは基板にハンダ付けされています。
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自身の発熱がハンダに伝わるのでハンダが劣化し、ハンダクラックしやすいです。

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予防補修
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上で解説したハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
これで更に10年は大丈夫です。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように全て良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
チューナ基板 |
W305 (Q801-E) |
+30V |
+28.6V |
〇 |
VT 電源 |
W116 (Q803-E) |
+12V |
+11.7V |
〇 |
チューナ電源 オーディオ電源 |
W113 (Q808-E) |
-12V |
-13.0V |
〇 |
W307 (Q805-E) |
+5V |
+5.15V |
〇 |
ロジック電源 |
電源基板 |
J705-3pin |
+5.6V |
+5.60V |
〇 |
MCU 電源 |
J705-5pin |
-35V |
-34.3V |
〇 |
FL 電源 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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FM 同調点調整が大きくズレていました。
再調整で規定内に入りました。
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IF BAND = WIDE では下の実測値のように、ものすごく良い性能が出て、音の解像度も上がりました。
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IF BAND = NARROW では数値は悪くなりますが実用範囲です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
61 |
60 |
dB |
NARROW |
30 |
30 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.017 |
% |
stereo |
0.019 |
% |
NARROW |
mono |
0.054 |
% |
stereo |
0.083 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-49 |
-50 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
-0.17 |
dB |
REC CAL |
WIDE |
mono |
445 |
Hz |
-6.0 |
dB |
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AM 受信
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[純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので IF 調整だけ実施しました。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時は全く FM 受信できない悲惨な状態でしたが、修理&再調整で新品時の性能に戻せてよかったです。
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再調整でステレオセパレーションも高調波歪率も良好になり、とても良い音になりました。
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ワイド FM 対応クリコン
を使ったワイド FM 受信も良好でした。
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FX-711 はアンテナ端子が2つあるので、ワイド FM 受信に便利です。
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現在の AM 放送は2028年にほぼ消滅するので今から準備するのが吉です。
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FX-711 は Victor 最頂点のチューナ
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5連バリキャップで高周波系の性能が良く、しかも音が良いです。
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鳶のビクターが鷹の本機を生んだかのような奇跡の高性能チューナです。
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SONY ST-S333ES シリーズを越えているかもしれない。
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FM 受信
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感度が良く、受信レベルが dB で表示でき、しかも正確です。
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聴いた瞬間に高音質と判る良い音
、素敵です。
聴き惚れます。
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PLL 検波らしい、スッキリした解像度感のある音です。
細かい音が綺麗に出る繊細な音です。
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本機の FM 受信時 S メータの dB 表示はかなり正確です。
30~90dB の表示範囲は信じてよいです。
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AM 受信
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筆者手持ちの [AM ループアンテナ] での感度はかなり高く、S/N も良いです。
音質は AM としては普通レベルです。
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本機のような FM が超高音質のチューナで、ナロー音質の AM をわざわざ楽しむ人はいないと思う。